スタイルのある生活~早期退職50代男子ハタさんの試行錯誤~

公務員を退職するに至る経緯からその後の生活まで

(コラム)「人間の市場価値」という言い方について ~日本の労働市場における市場価値とは何か~

仕事探しをしていると「公務員には市場価値がない」という表現をよく見かけます。

 

採用担当者から見て、営業とか経理とかのエキスパートではない元公務員が即戦力にならないというのは、実感としてよくわかります。私も、いきなり営業をやってみろと言われても無理です。素直にそう思います。

 

でも、他方で、民間の会社で働いていた人ならば、「即戦力」になれるのでしょうか。そういう訳ではないとも思います。

民間で働いていたというだけで市場価値があるわけではなく、同じ業界で働いていて、同じ仕事をした経験がないと、市場価値はない。現在の日本の労働市場では、そう考えられています。

公務員だろうが民間出身だろうが、同じ仕事をしたことがなければ市場価値はないのです。

「市場価値」と言われて、一生懸命考えてみましたが、実際に求職活動をしてみてわかったのは、ただそれだけのことです。

 

 

公務員として働いていた頃、新人の教育担当の役割を割り当てられることが多かったのですが、その時、感じたことがあります。

プロとして仕事ができるようになるかどうかは、最初の印象とはかなり違うことが多いです。

専門分野について大学などで学び、採用試験をいい成績で突破してきた新人は、能力が高いのは事実です。その能力を基に更に経験を積んで一人前になるのが理想です。

でも、他方で、採用試験の成績はぱっとしないけれど、配属された後、ガッツがあり先輩の指導に食い下がるような新人もいました。いわゆる「叩けば伸びる」タイプです。

 

叩けば伸びるタイプは、専門性や試験の知識などは、その時点では今一つなのですが、配属されれば部署に馴染む能力が高く、専門性がないが故の視野の広さを持っている場合があります。新人の教育の場面で、「叩けば伸びる」タイプを伸ばすことができれば、職場の大きな戦力になります。

 

組織としては、専門性もあって知識もある人材がほしいという本音はわかります。そういう人は得難い人材です。ただ、それだけでやっていけるのかどうかは、私は、常に疑問に思っていました。特に大きな組織を維持していこう思えば、一見、即戦力とは言えない人、言い換えれば「市場価値のない」人を、化けるようにすることが人材育成において、実は重視されるべき点なのではないかと考えていました。

でも、残念ながら、こういう意見は私の勤めていた職場では採用されませんでした。

 

 

これは、おそらく私が勤めていた組織以外でも、同じなのではないかという気がしています。人材を育てるという意識もノウハウもない。

 

人間の「市場価値」というのは、とても嫌な言葉です。

「市場価値があるかどうか」は、採用サイドの都合のいい「ものさし」に過ぎません。私はそう感じます。

 

経験者以外は市場価値がないという人事担当者の偏狭な姿勢の方が、今の日本社会にとっては、大きな問題です。ある程度の時間をかけて人材を育成するノウハウはないし、面倒だから「即戦力」を求める。このことの弊害は、とても大きいと思います。

失われた30年の原因は、ここにもあります。

 

その業界の経験のある即戦力しか採用しないという偏狭な態度が許容されている日本では、違う世界に飛び込むことは奨励されませんから、結局、同じ業界、同じ企業に居続けるしかありません。

職業選択の自由だとか、個人の幸福追求の権利だとかいう理念とは対極の、江戸時代さながらの閉鎖的な社会です(江戸時代に対して失礼か?)。

 

 

ネット上の記事を見てみるとよくわかります。中高年、公務員、就職氷河期に正社員になれなかった人、つまりスキルのない人、・・・そういう人たちには「市場価値」がないと書かれています。しかも、それは本人のせいだとまで書かれている記事が多くあります。

たいていは人事コンサルタントとか大企業の人事担当者などの書いたもののようです。

 

一度、謙虚になって、どうしたら多くの人の能力を活かして、社会全体として発展していくことができるのかを考えるべきだと思います。そういう世の中にならないと、まだまだ日本の社会は「失われる」ことになると思います。