1 前回のおさらい(金利を上げない理由の一つ目)
前回の記事で日銀がなかなか金利を上げないことについて、一つの理由を考えました。日本全体の経済情勢が上向かない中、物価が上がったからと言って直ちに金利を上げたら、政府の経済政策に水を差してしまう。日本全体の状況(失われた30年)を考慮したら、経済対策の重要性は明らかです。物価が上がったからと言って、直ちに「はい。金利を上げます。」とは言えない。
だけど、これだけ物価が上がってしまうと上げない訳にはいかない。物価の上がり方を考慮したらもっと上げたっていいくらい。
このジレンマの中、今回の金利1%というのは、日銀としてギリギリのラインなのだろうと私は思います。経済対策に水を差すことなく、金利を上げた実効性を最大限にするために、日銀は記者会見で「これからも状況を見て、金利を上げる可能性がある」とアナウンスして、口先介入のようなことまでしている。
「まだ上げるかもしれない。」と言うことで、金利が上がった効果を実効性あるものとする反面、上げ幅は最小限にして日本経済に対する悪影響を最小限にとどめる。そういうことだと考えられます。
2 日銀が金利を上げられないもう一つの理由
1の理由も確かにあると思うんですが、実は金利を上げることに消極的にならざるを得ないもっと本質的な理由があります。
これについては、過去の記事に答えを書いちゃってます(以下リンクを貼りました。)。
簡単に言うと、国債の発行残高が1110兆円(財務省の見込みで2026年度末で約1145兆円)もあるから、金利をおいそれと上げる訳にはいかないんです。金利が上がると、国債の金利も上がるから、政府の返済額が増えるんです。そうじゃなくても膨大な額の借金があるのに、さらに返済が増えるのは国の存亡にかかわる。これが、現在の日本の事情です。
だから、日銀もなかなか金利を上げなかった。
これは前回書いた政府の政策に水を差さないように配慮するという以上の重みのある根本的な事情かもしれません。
言葉を代えて言うと、これからも日銀は金利を上げられないとすら言える異常事態です。
3 日銀が金利を上げられない状況になったのは政府が悪いのか?
(1)国債を発行したときの状況
ここまで考えて、「なんでこんな状況になってしまったのか?」という疑問が浮かびます。国債を多く発行してきた政府が悪いのでしょうか?
国債は失われた30年の期間中に多く発行されました。これは景気対策、社会保障関連費、コロナ対策経費などを賄うためだったと言われています。税収だけではとても足りなかった。でもやらなきゃいけないことがあるという判断。
それはわかる。
(2)どうやって国は資金を調達したのか?
でも、国債をそんなに多く発行して買ってくれる人がいたんでしょうか?
一般に国債は他の金融商品と比べると利回りは悪い。しかも日本は当時から国債発行残高が多く、平たく言えば借金まみれ。そんな国の国債を大量に買う人はいないはずなんです。
じゃあ。どうしたか。国債を買ってくれたら、その国債を必ず日銀が引き受ける(買う)という約束をした。前回の記事で、失われた30年の真っ最中に行われたゼロ金利、マイナス金利政策を「異次元の金融緩和の一部」と言いました。つまり、マイナス金利政策以外のもう一つの中身がこれです。
この約束で日本の国債は必ずもうかる金融商品になりました。国債を買って日銀に転売したら必ず利益が出る。そして、この仕組みを利用して民間の銀行が多くの国債を買うことになったわけです。
異次元の金融緩和の中身として、①国債を政府が発行する、②民間の銀行が買う、③民間の銀行が日銀に売る、ということが行われるようになったということです。
(3)国債を日銀が買うことに問題はないのか?
買うこと自体には問題はありません。日銀法33条で物価安定のため国債を買うことができると定められています。市場に出回っている国債を日銀が買えば通貨量を増やすことができます。
(4)「国債を買うと約束すること」に問題はないのか?
大アリです。
まずは、前提です。財政法第5条において、「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない」とされています。つまり、日銀が政府の発行する国債を直接買ってはいけないということです。
これはなぜなのか。日銀の存在理由に立ち戻って考えます。日銀は政府が野放図に通貨を増やすのを防ぐために独立した組織として設立されました。政府とは別の観点から判断して通貨量をコントロールするためです。
日銀と政府が結託して日銀が国債を買えば、政府は無限定に資金調達ができることになってしまいます。これは日銀の存在理由を脅かす。だから、日銀が政府から国債を買うことは禁止されているのです。
だとすると、現在行われているのは、一度市場に出た国債を買い取っているんだから問題ないと形式上は言えます。
しかし、通常は日銀は物価安定のため必要な量だけ国債を買います。だから、法律上も市場から国債を買うことは許されている。だけど、政府の発行した国債を必ず日銀が買うと約束することはこれを無意味にします。政府から直接国債を買っているのに等しい。
日銀の存在意義を損なわせる政策だったけれど、それを約束した日銀もその政策に協力した共犯とも言える。政府は景気回復のため、日銀はデフレから脱却するという目的のために手を組まざるを得なかった。
日本の経済はそこまでせざるを得ないくらい傷んでいる。
(5)そこまでして通貨量を増やしたのになぜインフレが起きなかったのか?
現在、日本の市場には過剰な量の円通貨が溢れています。「ジャブジャブ」と言われることもあります。それなのに景気は良くならなかった。これはなぜなのか、次回考えます。
