目次
1 人手不足の日本の現状
ず~っと人手不足と言われています。他方で、就職できない人がたくさんいます。
就職氷河期世代の人に、正社員採用の話があれば多くの手が上がるでしょう。
家庭の事情で退職した女性にとって柔軟な働き方ができる職場があれば、そこで働きたい人はたくさんいるでしょう。
多少条件は悪くても経験を生かすことができる仕事があれば、応募するシニアも少なくないと思います。
それなのに、人手不足という訳です。
2 働きたい人がたくさんいるのに、なぜ企業は人を採用しないのか?
こんなに働きたい人がいるのに「人手不足」になる理由を、一昨年公務員を早期退職して実際に就職活動をしてみた経験も踏まえて、(少し推測も入れて)具体的に考えてみます。
(1)採用現場で起こっていること
企業が人を採用する際の一番基本的なやり方は、ハローワークに求人を出すことです。また、最近では求人サイトや契約社員の登録サイトを利用する手もあります。また、つてを頼って一本釣りする方法もある。
でも、そういう様々な手段を活用しながら求人をかけるけれども人が集まらない。応募してきた人も採用に至らない(不採用)。
(2)求人票の情報と企業の採用担当者の本音
どんな求人があるのか、ハローワークの求人を見てみると、年齢、性別、経験不問と書いてあるものが多いです。
だから、実際に応募してみる。すると書面審査(履歴書など)で不採用となります。実際に様々な企業に応募してみましたが、何十社も不採用となります。
「人手不足」という状況の中、年齢、性別、経験不問の仕事で不採用になる理由がよくわからないのですが、求職活動をする中で感じたのは、結局、求人を出している企業(企業の採用担当者)は「経験者」を欲しがっている。それも「ほぼ最低賃金」で働いてくれる人を望んでいる。これが本音だと思います。
経験があるかどうかは履歴書を見ればわかりますから、経験が無ければ基本的には面接をすることもないということだと思われます。
(3)企業が経験者を求めるというのはどういう意味か?
では、なぜ企業は経験者を求めるのか。
理由は簡単で
・採用してからトレーニングをする手間をかける必要がない。
・採用してみたものの採用された人に適性が無かったというリスクを取らなくてすむ。
ということです。
だから、より正確に言えば、経験者と言っても「その業界の経験者」というよりも更に厳しく「同じ仕事をしたことがある人」というイメージに近い。
(4)経験者を求めることの問題点
そんな都合のいい「経験者」が「ほぼ最低賃金」で集まる訳がありません。だから人手不足になる。
(5)多少のまとめ
今、働きたいと切に願っている人たちは、そういう人たちではありません。
働きたいと思っている多くの人は、(1)非正規としてしか働いたことがないけれどチャンスがあれば正社員として働きたい就職氷河期世代の人だったり、(2)家庭の事情で前職は辞めたけれど、子育てとかそういう事情を抱えつつも自分の能力を生かせる職場を探している女性、(3)人生に一区切りをつけたけれど、これからも何とか社会に貢献したいと考えているシニア、などです。この他にも能力もモチベーションもあるのに、就職活動をしても採用されないから働くことをあきらめている人は多いと思います(SNSでも散見されます。)。
平たく言えば、巷には働きたい人がたくさんいるのに、求人に応募してきた人を年齢や経歴であっさり不採用にするから人手不足になっているということです。
もちろん、これが人手不足のすべての理由ではないかもしれないけれど、確実にこういう面はある。違う業界からでも、経験が無くても、やる気があってトレーニングを積めば戦力になる人も少なくないと思うのですが、そういう事実には目を背けている。
なぜなら面倒くさいし、リスクがあるから。
ちなみに、私はハローワークに通って20社以上の求人に応募しましたが、すべて書面(履歴書など)のみで面接も無く不採用となりました。履歴書などの求人の応募書類を作るのは結構な手間やエネルギーを必要とします。それで何十社も門前払いされたら、「やる気を失うなあ。」と心の底から思いました。
企業がありもしない人材を探している反面、求職者がどんどんやる気を失って、求人に手を挙げる人もいなくなっているのが今の日本の労働市場の実態なのだろうと感じました。
3 解決策
(1)社員のトレーニングに手間やお金をかけること
まず、それぞれの企業が就職をした人にトレーニングする手間を厭わず、お金をかけることだと思います。
実は、本当に人手不足で困っている業界では既に実行するところが出てきています。公共交通機関の運転手などの求人では、トレーニング期間を設け技術を習得した上、免許の取得を後押しすることも前提としているものがあります。また、チューター制を採用して人材を育てることをアピールしているところもあります。
でも、多くの企業の経営者は「まだ、そこまで困っていない。」ということなのでしょうか(*)。こういう試みは一部に留まっています。
*「そこまで困っていない。」という状況については、企業内部の酷い現状があると思いますが、今回は書きません。
(2)求人情報を開示すること
現在の求人情報には年齢、性別、経験不問という記載がほとんどです。こういう記載も見て「自分も応募資格がある。」と思って応募しても、求人を出している企業のイメージとは違う人材ということが多いのではないかと思われます(「経験者」ではない!)。
法律的な問題もあり、こういう記載にせざるを得ないということも理解はできますが、法律を守りながらもその会社がどういう会社なのか、どういう人材を欲しているのかを発信しているところもあります。
どういう職場でどういう仕事をしてもらいたいのか、どんな職場環境でどんな人が働いているのか等を企業のホームページで発信したら、応募者の数が飛躍的に増加したという話も聞きました。
法律や制度を言い訳に前例を踏襲するのではなく、情報発信に力を入れることも「欲しい人材」と出会う可能性を高めるのではないかと思います。
情報発信をしてもらえば、求職者の方では自分がその企業の求める人材かどうかの判断がつきやすくなります。採用単層者の方でも採用したいイメージに近い人材が応募してきますから、効率的に採用事務を進めることができます。
(3)労働法制を改善すること
日本の労働法制の問題は大きいでしょう。
日本の法制度では、一度採用したら余程のことがない限り解雇することは許されません。だから、人を採用する際には過度に慎重になってしまう。
現在問題になっている「働かないおじさん」も、解雇されることなく定年まで働くことができるからこそ、組織にのさばることができる訳です。
こういう制度は改善されていかなければならないと、私は思います。
政治的には「解雇法制」を改正すると言うと労働組合は言うに及ばず、多くのところから拒否反応があります。小泉進次郎議員が自民党総裁選で少し口走っただけで大騒ぎになったことは記憶に新しいところです。
解雇法制を改正したいのは財界の悲願のようなところもあります。「使えない人を簡単に解雇したい。」という本音は否定できないでしょう。だから制度を改正していく中では、そういう恣意的なことができないように知恵を絞ることは必要です。
でも、他方で、今の硬直化した労働市場を改善して人が循環するような法制度を作ることは不可欠だと考えられます。能力のある人が採用されるような労働市場を作ることで、企業にも求職者にもメリットが生まれてくるのではないでしょうか。