仕事でクレーム対応が日常的なところに随分長いこといました。
クレーム対応のノウハウについては、いろいろなことが言われていますが、結構長い私の経験から(本当に長いです)、思うところを述べます。
巷のクレーム対応部署のマニュアルは概ね
1 傾聴、共感
2 事実確認
3 対応策
4 お詫び、感謝
5 フィードバックと改善
というようなことが書かれています。研修でもそんなことが言われます。
でもそういう仕事をしてつぶれてしまった人いませんか?
現実にクレームを入れてくる人の大部分は、いわゆるクレーマーです。正当なクレームは少ない。それなのに正当なクレーム前提のマニュアルだけが作られています。クレーム対応とクレーマー対応は違います。以下「クレーマー対応」について書きます。
1 傾聴、共感
これはファーストコンタクトでやるべきことですが、形の上では「傾聴と共感」はあると思います。でも、本気でやろうとしたら心が壊れます。
クレーマーというのは基本的には本来得られないような利益を得ることを求めたり、自分の言いたいことを対応する人にぶつけて気分良くなりたいという人です。本当の意味での傾聴、ましてや共感は無意味です。
もちろん、相手が何を言ってきてどう対応したのかを後に残さないと自分が危ないですから、きちんと相手の言っていることの要旨を適切に聞き取る必要はあります。そのためには「共感的な態度で」聞くことや、例えば「話を遮らない」などのテクニックは非常に重要になってきます。
クレーマーは、研修のロールプレイなどでの場面設定のように、自分の目的をきちんと言いません。言えないと言ってもいいです。そういう人たちです。
だからこそ、傾聴と言うよりも「雑然とした言葉の中から要求の要点を汲み取る」ことが大切になると思います。
また、傾聴と共感と言うと、「傾聴することによって共感を目指す」ように誤解する恐れがあると思います。クレーマーに共感などできませんし、「共感的な態度」を取ることはテクニックであって目的ではありません。
2 事実確認
この点だけは巷のマニュアルどおりでもいいと思います。
クレーム対応の出発点となる事実確認を怠ると、きちんとした対応策の検討ができなくなります。きちんとした対応をしないと、新たなクレームを誘発したり、それが正当なクレームになってしまいます(お詫びをしなければならなくなります。)。
だからこそ、ファーストコンタクトで、共感的な態度をとりつつ、事実や相手の要求を拾い出すことは非常に重要になります。
3 対応策
クレーマーの言うことから、事実と要求の要旨を拾い出したら、それに対して「答えるべきこと」を固めた上で答えます。質問に対しては懇切丁寧に説明をします。説明の回数は3回程度です。
クレーマー対応を経験したことのある方ならばわかると思うのですが、クレーマーは言葉を変えて何度も同じことを質問してきます。よくあるのは「今あなたは・・・と言ったけど、だとすると・・・ということになるよな?」というパターンです。微妙に言葉を変えていますが、基本的に同じ内容の質問で、こちらが答えるべきことは変わりません。
しかし、クレーマー対応に慣れていないと、これを新しい質問と捉えて答えてしまいます。「そういう意味ではありません。・・・です。」「そういう意味とはどういうことだ?」と続きます。これをやっているとクレーマー対応の無限ループにはまります。
人柄がいい人の方がこの罠にはまります。マニュアルや組織の考え方を真に受けて延々とクレーマーの質問に、真摯に答えようとして疲弊してしまいます。
「・・・というご質問ですが、こちらの説明としては、先ほど申し述べたとおりとなります。繰り返しますと・・・」という対応がセオリーだと思います。繰り返しますが、お答えできる範囲のことは懇切丁寧に説明をします。
これに類似したやり取りを3回程度したら、「申し訳ありません。さきほどから説明をさせていただいているとおりです。」と、どんなに同じ内容の質問を言い換えられても言い続けます。
クレーマーのネタも何十もあるわけではありませんから、この対応で大方のクレーマー対応はほどほどの時間で終わります。
「お前では話にならない」と言って電話を切らせるのも、立派なクレーマー対応です。
クレーマー対応は、相手の電話をかけてきた目的に対してきちんと対応をしたらいい(言うべきことを言えばいい)のであって、質問一つ一つに答える必要はありません。
4 お詫び、感謝
クレーマーには、お詫びすることも感謝することもありません。前述のように「形の上で」、「気分を悪くされたなら申し訳ありません」という本質とは違うところでテクニックとしてお詫びを述べることはありますが、本当の意味でのお詫びはクレーマーにはしません。感謝などもってのほかです。
5 フィードバックと改善
基本的には正当なクレームに関することです。
ただ、クレーマー対応マニュアルを作成、見直しをすることは考えられます。次につなげられることがあれば、現場で共有することは必要でしょう。
組織としての対応がクレーマーを増殖させるようなものでないか反省する機会にもなります。私がいた組織は、クレーマーに対して強い態度がとれないところでした。研修などでは、「ご理解いただくように」とよく言われました。理不尽な要求やクレームを切り捨てられない対応は、クレーマーをリピーター化します。なんとか改められればよかったのですが力が及びませんでした。今でも残念です。
冒頭に正当なクレームに対する対応のマニュアルはあるけれど、クレーマー対応のマニュアルがないと言いましたが、なぜなのでしょうか。
おそらく、そういうものが外部に流出すると、国家公務員であれば国民、民間企業であればお客様をクレーマー扱いしているとの批判にさらされるから作れないか、作らないのだと思います。
でも、そのツケは全て現場ですから、たまったものではありません。